「やはりこういうことか、



「………リ、オン…?」




達の背後にいたのは、壁に背を寄りかからせ厳しい目を此方に向けているリオンだった。

表情からして、リオンは少し機嫌が悪いように見える。
にはその理由が分からない。





「前に此処に来た時お前の様子がおかしかったからな。必ずもう一度来ると思っていたぞ」
「だからってなんでテメーが来るんだよ」
の関わるクエストはギルド全体に大きく影響を及ぼすものがあるからな。エヴァのギルドを代表して僕が来たんだ」


スパーダが喧嘩腰に突っかかるのを、リオンはさらりとかわす。



ブーツの音を甲高く鳴らしながら、リオンはの方へと歩いていく。
そしてガッとの襟元を掴むと、鋭い眼光で睨み付けた。



「!!!」




セネルとスパーダが目を見開く。
リアラの体が、二人を止めようと一瞬動いた。






「どうして言わなかった!」


「リオン…?」



「お前が此処に来た時、僕も此処にいただろう!!なのに何故言わなかった!?どうしてわざわざ他所のギルドから助っ人を頼むんだ!」









一緒に来てくれと言えば、頷いたのに。









は一瞬目を見開いた後、段々と表情を明るくした。




「なんだ、その顔は。僕は今怒っているんだぞ」

「…でも、オレ今すげー嬉しいんだけど」



リオンとは対照的にはどんどん頬を緩ませていく。
最初は気を張っていたスパーダ達も肩を竦め、脱力した。




















「おい、リオン。それって
“ヤキモチ”か?」



「!!」




スパーダの言葉にリオンは顔を赤くする。






自分の方が傍にいるのに、遠くから俺らが呼び寄せられて腹立ったんだろ?」

嫉妬…?リオンも可愛いところがあるのね」




セネルやリアラもかぶせてくる。
リオンの表情が段々と崩れだした。


トドメに、コレットの天然炸裂発言。







「なーんだ、リオンさんは
大好きなんですね〜」




リオンの顔は、ぼっと火が点いたように一気に真っ赤になった。





ちっ!!!違うぞ!!!僕はただ…エヴァにだって優秀なアドリビトムはいると言いたいだけで…」

「さっきまでと言ってること違うじゃねえか」





最早、最初の勢いはどこへやら。
リオンは汗びっしょり、顔はトマトより赤い。


で笑いっぱなしである。







「何を笑っている!!!元はと言えばお前が…!」

「ごめんって!…じゃあ、リオン。オレに力貸してよ」

「…っ……。まあ……お前がそこまで言うなら…貸してやらんこともない」





そっぽを向きながら答えるリオン。だがその耳はまだ赤い。

遠くでスパーダとセネルが声を押し殺して大爆笑している。















「よし、じゃあ行こうか!この先は何があるかわからないから皆自分の傍にいる人を常に確認!」
「「「「おお/ええ/うん!」」」」


暗い階段を見据え、気合を入れるメンバー。

そして第一歩を踏み出した―――――――。

































「うわー真っ暗…皆いるかー?」

「いるぞー…ってうわぁ!誰だ!?押したのは!」


「きゃあ!今何か冷たいものが背中に当たったわ!」


「みんなどこ〜〜?」


「落ち着け、冷静に…今なんか踏んだような…」


「……お前等少しは静かに歩けないのか?」






ぎゃいぎゃいと賑やかに階段を降りていく一行。
降りれば降りるほど暗くなっていく地下はとても視界が悪い。




「テネブラエ、何か灯りになるようなものが無いか捜してきてくれ」
「お任せを」



闇属性のテネブラエならこの闇の中優位に動ける。
これ以上灯も無しに進むのは危険な為、テネブラエが戻ってくるのを待った。









様、コレを」

数分も経たない内に、テネブラエは細い棒を持って戻ってきた。
それに火を点け、自分達を照らす。




「サンキュ、テネブラエ。よし、皆いるな」
「でも本当に暗いわね…。一体何処まで続くのかしら、この通路…」



真っ直ぐに闇へと続く道。
それは進む意欲をどんどん削いでいく。



「モンスターがいないとも限らない。灯を燈しながら進むぞ」




リオンの言葉を聞き、は松明を近くの燭台に燈す。
段々と辺りが明るくなり、ようやく進みやすくなった。








「ほんとに一本道だなー。なんかあるって感じでもねえし」
「これで何も無かったら残念だね」



緊迫した雰囲気も、なんの変哲も無い道では長続きはしなかった。
だんだん皆気が抜けてきたのか、呑気に散歩気分だ。






「おい、お前達油断していると…」

「あ、また階段だ」




リオンの言葉を遮ったの言葉で全員が前を見た。
一本道の果てにあったのは上りの階段だ。




「一体何処に出るんだ…?」


一歩ずつ階段を上がって行く。
天井、と思わしき部分が先ほどの階段と同じならば開く筈ととセネルで力を込めて持ち上げた。


ゆっくりと持ち上がる天井に、光が差し込んできた。








「……此処はっ」







出た先は珠海の塔ではなかった。
そして、外でもなくまた何処かの遺跡だった。






「何処だ、ここ?」

「外見て!!」



コレットの声に皆が窓の外を見ると、珠海の塔が目に入った。
そして遺跡の周りに広がる水。







「もしかして…此処って珠海の塔の南にあった遺跡?」

「“夢幻の砦”か」

「んあ?それって此処のことか?なんで夢幻なんだよ」

「目には見えているのに手が届かない幻のようだから、そして中に入った者を惑わせる魔物がいると言う噂からそう名づけられた」




あくまでも噂だがな、と付け加えるリオン。

しかし、未開の地と言うこともあり石版があることの確実性が高まってきた。





「しかしどうして今まで探索の手が入らなかったんだ?簡易な船でも行けなくはなさそうな距離だろう?」

「この砦を囲う湖には特殊な水草が生えている。それらは動くもの全てに反応して絡みつく、船・人間・魚。なんにでもだ」

「成程…湖を渡ることは不可能なんだな」



セネルは納得したように頷いた。
リオンは整った顔を少しだけ歪め、何やら思案していた。



―――そういえば、奴が此処に来ていると言う話もあったが…







少し進んでいくと、吹き抜けのある広間に出た。
見上げれば青い空が小さく見える。
上に気を取られていると、コレットがの腕を引っ張った。





「ん?」

「…あそこ!誰かいる!」





部屋の柱の影に見える影はよくよく目を凝らせば人の足だった。
体勢から見て、倒れているのか座り込んでいるのか。どちらにせよ、隠れてはいないようだ。
見たところ意識が無いようにも見える。



ゆっくりと、姿を確認する為に近づいてくとその姿が見えてきた。





「!!!コイツはっ!」

「この人!!!」




リオンとの声が同時に響いた。




背を壁に預けているその人は、全身を傷だらけにしてぐったりとしていた。
青を基調とした服は所々血で黒ずんでいる。



「ワルター!」
「この人…エヴァのアドリビトム?なんで此処に…。リアラ、回復頼む!」
「ええ、任せて!
ヒールっ!!!





たちどころに傷は癒えたが、ワルターは目を覚ます気配が無い。

「どうして…?傷は治ったのに…」
「おいっ!しっかりしろよ!」


コレットの瞳が揺らぐ。
スパーダがワルターを揺さぶってみるがやはり反応が無い。


ふと、はワルターを覆う黒い靄のようなものが見えた。



「これ…なんだ?」
「…“負”だわ。彼の周りを負が覆ってるわ」



リアラは小さく呟いた。
その言葉に全員が不思議そうな顔をする。


「この黒いのって“負”って言うの?」


コレットがリアラの言葉を引き継ぐ。



「俺達には見えねえよなあ、セネル?」
「ああ。リオンはどうだ?」
「僕にも見えん。本当に見えてるんだろうな、お前達」



「オレには見えるよ。…なんかとっても嫌な感じだ」


とリアラはディセンダーの資質故、コレットは教会に仕える身として神気を持っている為見えるのであろう。


ワルターを覆う黒い靄は、まるで近づいた者全てを引き込んでいきそうな迫力がある。
迂闊に近寄れば、周りにいるもの全てが飲み込まれてしまいそうだ。



「……」


はなんとなく、自分がコレを取り除けるような気がした。
腕輪をした右手をワルターへと向ける。

だが、どうすればいいのかがわからない。




さん、深呼吸するですの」
「イメージするのです、風が煙を払うように」




ミュウとテネブラエの言葉を聞きいれ、は目を閉じた。
しっかりと息を吸い、吐くと同時に自分の中から力が流れ出たのが分かった。
まるで煙を吹き飛ばすかのように、ワルターを覆っていた黒い靄は晴れていく。




「…すごい…、消えたよ。黒いの無くなったよ!」

「やったわ…!これで気がつくはずよ!」


コレットとリアラは歓喜の声を上げる。
何が起こったのか判らないスパーダ達は首を傾げていたが、小さく呻いたワルターによってそれは伝わった。





「おい、ワルター。貴様勝手にこんな所に一人で来てこの様か。一体何があった?」

「…その嫌味ったらしい口調は…リオンか…。貴様には関係無い…」

「朦朧とした頭じゃ理解出来ないのか?お前は無様にも倒れていた所を口が聞ける程度まで回復してもらったんだぞ?理由を聞く権利が僕らにはある」





「なんであんな言い方しか出来ねーんだ、アイツ」
「きっと心配の裏返しなのよ」
「そうか…?」



小さい声で喋っているスパーダとリアラとセネル。
だがそれはリオンに届いていた。




「…貴様等…喋れないようにしてやろうか?」



剣を向けそうな勢いのリオンに慌てて首を横に振る三名。


はワルターの腕を取ると、自分の肩に乗せた。






「なんの…真似だ?…施しなんぞいらん」

「施し?ただ単にオレは先に行きたいだけだよ。アンタオレらより先に此処に来てるっぽいし道解るでしょ?」

「……なら教えてやるから勝手に…」

「まだ満足に動けねーのに何言ってんの。オレは道案内役を、アンタは杖を手に入れたと思えば一石二鳥じゃん」

「…フン」



捻くれた性格ならリオンやアッシュで慣れているし、ジェイドからあしらい方も習っている。
そんなの前ではワルターも押し黙った。








は『ツンデレマスター』の称号を手に入れた”











、私も手伝うよ」
「うん、ありがと。じゃあコレットは段差とかあったら支えてくれる?」
「任せて。えっと…ワルターさんでしたっけ、私エルグレアのコレットです」

「別に名など聞いてない…」

「あ、オレも自己紹介してねえ!オレはイクセンの、よろしくワルター」
「俺はスパーダってんだ」
「俺はセネル、よろしくな」
「私はリアラ、コレットと同じエルグレアから来たの」






「……おい、リオン」

「諦めろ。コイツ等のマイペースさは今に始まったことじゃない」